筆者の覚悟と勇気があふれる素晴らしい本
この本は育毛うんぬんを抜きにしても面白い。この育毛系7冊一気読みの本の中でも、最も印象に残った本である。著者は自ら、サロンや医療機関、消費者センター、毛髪科学協会、果てはホームレス、薬剤師、製造工場の現場まで足を運んでおり、育毛の話としても信ぴょう性は高いと言える。
内容としては、サロン編と医療編に分かれている。本当によくこんなに行ったものだと思うが、実はこの話は、2004年とあるので、最新の情報ではないことに注意してほしい。特にサロンなどは、全く様変わりしているところもあるかも知れないが、この話で得た情報は、大半が今でも多くは有効だと思える。この本を読むことで、育毛の真実に一歩近づけるはずだ。
著者はこの本の最後に「つくられたものを疑え」とまとめている。著者自身は、執筆時29歳で、頭髪の状態はよく見れば、薄毛というぐらいの薄毛初期状態の人である。なので、潜入ルポも、一見すれば普通の人なので、結構そういう意味で苦労したケースが多かったようだ。さまざまな取材を経て、著者は皮膚を大事にしようと心がけるようになった、育毛剤を使わなくなった、サプリも然り、野菜をよく食べるようになったという。基本に立ち返っている様子である。
山あり谷ありの様々な潜入ルポの後で、人工的につくられたものに懐疑的になったこの著者の結論は、一連の行動を全て読んだあとなら、大いに賛同できる。著者は育毛業界の真実に近づきすぎたのだろうと思う。ただし、この著者が当時若いということもあるし、薄毛の人が、この著者の最終的に選んだ育毛手法と同じ選択をすれば、それでよいのかというと、そこは疑問符がつく。
だが、それでも、薄毛をなんとかしたいと思うなら、常に副作用などのリスクと戦っていくことになるので、この本の情報は助けになると思う。まぁ、その後に新しく生まれた育毛の新たな手法に関する情報は、もちろん含まれていないので、そのへんは考慮するしかない。予想はしていたが、発毛促進因子などの話は、この本には出てこない。
最後に、この本のまとめの一部を抜粋しておこうと思う。
- たいていの育毛剤は壮年性脱毛(男性型脱毛)にはさして効果がない。なぜなら、男性型脱毛はあくまで内分泌の問題だからであり、血行促進などをしてもたかが知れているからである。
- 未承認薬をはじめとする治療は、あくまでハイリスク・ハイリターンな手法であるということ。進行した男性型脱毛に対処するにはこの手法しか残されていないが、同時に危険も多い。しかも必ず効くとも限らない。医療事故が起こっても、自由診療では患者の自己責任である。治療は医師任せにせず、知識を蓄えたうえで、あくまで医者を利用するような気概で行うのが正しい。
- 髪は脂のせいではめったに抜けない。脂を多く分泌するのは、脱毛現象と同時に起こる、男性ホルモンの作用の結果である。脂自体が男性型脱毛の直接的原因になるということはない。
- 毎日髪を洗わなければならないという言説は、日本式清潔志向の産物であり、それが健康をもたらしてくれるという医学的な裏付けはない。むしろ、常在菌などの研究により、ゆきすぎた清潔志向は、いずれ覆される可能性がある。
- 洗浄剤はピンキリである。いかなる洗浄剤も基本的に肌にダメージを与える。
- 医者といっても、さまざまな治療方針をもっている。仮に軽度の皮膚炎であっても、複数の医者にかかることは必要かも知れない。多くの皮膚炎には抗菌剤(抗生物質)やステロイドが使用される。しかし、このような薬物をできるかぎり使用しない正規の医者も存在する。大きく分けて、医者には、現代医学に全幅の信頼を置くタイプと、自然回帰志向の強いタイプとがいる。
- 健康な人には、サプリメントはとくに必要ではない。むしろ、長期間の大規模な疫学調査では、予期されなかった副作用が発見されはじめている。
- 男性型脱毛症には決定的な対処法がなく、またそもそも「病気」ともされていないため、毛髪関連業界には胡散臭い商売が跋扈(ばっこ)しがちである。それらは、いわゆるインチキ東洋医学やインチキ民間療法などの領域からやってくる傾向がある。インチキなものを見分ける方法を記しておくとすれば、以下のようになる。
A.「なんでも治る」とする型のもの
B.異様に大金をとる(型のもの)
C.異様に宣伝する(型のもの)
本当は、この本から、まだまだ有益な情報を挙げられるのだが、キリがないため、このへんで区切ることにする。
この記事へのコメントはありません。